私立恵比寿中学がフリーライブを行う。その知らせはグループの公式SNSで知った。会場はさいたま新都心にあるショッピングモール、コクーンシティ。自宅から車で30分ほどで着く場所だ。
自分は私立恵比寿中学のファンである。10年ほど前に音楽性の面白さに惹かれたことをきっかけに応援し始めた。ここ最近はメンバーの入れ替わりや音楽性の変化を理由に以前ほど熱心には追っていないものの、少し遠くから見守るような気持ちで応援は続けている。
久々にえびちゅうに会おうと思い、コクーンシティまで車を走らせた。いつもは1人でライブへ行っているが、 中学マイナス12年生である1歳の息子も連れて行った。ショッピングモールでのフリーライブだし、ホールやライブハウスより短時間で音は小さいと予測したからだ。息子は生でライブを観たことがないが、ショッピングモールのフリーライブならライブデビューには最適だろう。
会場に到着したのは開演15分前。流石に沢山のファンが集まっていて、ステージから離れた場所しかスペースは空いていなかった。ギリギリメンバーが見えるぐらいの位置だ。抱っこしてあげれば息子もステージは見えるだろう。
フリーライブとはいえ、ファンの熱気は普段のライブとほとんど変わらなかった。周辺環境に配慮しつつではあったが、1曲目の『 トーキョーズ・ウェイ!』から声を出したり振りコピして楽しむファンがいる。
2曲目に『仮契約のシンデレラ』がパフォーマンスされると、観客のボルテージは一気に最高潮に。大きな声でコールをしたり、腕を上げているファンも大多数になってきた。通りすがりの一見客の目も奪うほどに、メンバーは良いパフォーマンスをしている。
息子はステージをどんな表情で観ているのだろう。ふと息子に目をやってみたが、彼は全くステージを観ていなかった。
それよりもハイテンションで楽しむファンを見ていた。遠いステージで踊る人々よりも、近くで楽しそうにしている人を見る方が好きなのかもしれない。さらには振りコピしていた女性ファンを息子はまっすぐ指さしていた。まるでまっすぐ君だけにありったけの愛を捧ぐかのように。しかし1歳児でも女オタオタは許されないので止めなさい。
ステージで音楽にまつわる何かをやっていることには気づいているようで、曲が終わるごとに周囲の観客と同じように笑顔で拍手をしていた。ステージを見ずとも、演者への敬意は忘れない。
だがやはり息子はステージよりも近くの他のものが気になるらしい。観覧エリアの植え込みに生えている花や木々に興味津々だった。周囲のファンがメンバーの名前を呼ぶ中、息子は「葉っぱ!葉っぱ!」と連呼していた。木の枝の葉っぱを指先でツンと触って動く様子を見て「葉っぱぁぁ///」と言ってニコニコしていた。アイドルではなく葉っぱにデレていた。
外の世界には息子がまだ知らないものがたくさんあって刺激が多い。だから今はまだ近くにあるものを探って知るモードなのかもしれない。実際に息子は近くにいた楽しそうなファンの姿を見て笑顔になっていたし、手の届く場所にある植え込みの葉っぱの美しさに感動していた。
このように息子は近くにあるものの素晴らしさには、たくさん気づいて知ることができている。遠いステージのアイドルの魅力を知るのは、もう少し先の話なのだろう。
つまり息子が私立恵比寿中学の素晴らしさを知ることができなかった理由は、父である自分が出遅れてステージの近くに行けなかったことが原因である。
もしもえびちゅうをまた見れる機会があったら、今度は近くで見せてあげるからね。