息子が生まれてからずっと、ミルクを飲んだ時間を記録している。新生児や乳児は基本的に3時間置きに、最大でも前回の授乳から5時間以内にミルクを飲むのが基本なので、うっかり忘れないようにするためだ。適正な時間を超えてしまうことも、逆に早めてしまうことも良くはない。
オムツ替えの時間も記録している。赤ちゃんはウンチの色で健康状態がわかると言われているし、オシッコの回数も健康状態を表す場合がある。それはしっかり確認しなければならない。
それを毎日繰り返すうちに、息子の行動に対して「マン」という言葉を付けて呼ぶようになった。例えばミルクを飲ませる時は息子を「ミルクマン」と呼んだり、抱っこしなければ泣き止まない時は「抱っこマン」と呼んだりと。
オムツ替えの時も同じだ。ウンチの時は「ウンチマン」と呼び、オシッコの時は「オシッコマン」と呼んでいる。
決して息子をディスっているつもりはない。「マン」という言葉は語呂が良くて、言っていて気持ちいいから言っているだけだ。しかし下品な表現だし暴言にも聞こえる言葉なので、息子の物心が付く前にこの呼び方は止めなければと思う。
先日「オシッコマンだったかぁー」と言いながら自分がオムツ替えをしていた時、妻がふと「オシッコマンって、ACIDMANと発音が同じだね」とつぶやいた。
盲点だった。たしかにオシッコマンとACIDMANと全く同じ発音だ。オシッコマンとACIDMANでラップができそうだ。
しかしオシッコマンよりもACIDMANの方が良い。なぜならACIDMANはめちゃくちゃカッコいいロックバンドだからだ。オシッコマンにカッコいい部分は皆無だ。
メジャーデビュー20周年のベテランながら、今でも第一線で活躍し続けているACIDMAN。彼らはメジャーデビュー曲『造花が笑う』で衝動的なサウンドを鳴らし頭角を表し、続く『赤橙』をリリースした頃には日本のロックシーンを牽引するバンドになっていた。デビュー当初から注目されるほどの実力と才能を兼ね備えていたのだ。
2022年にはメジャーデビュー20周年を記念して、主催音楽フェス『SAI』を開催している。さいたまスーパーアリーナで2日間開催し、Mr.Childrenやback number、ELLEGARDENなど人気バンドを招き大成功させた。
若手の後輩にも慕われている。同フェスに出演した後輩バンドsumikaは、ACIDMANから影響を受けたことを語り、共演の喜びを何度も語っていた。彼らは今でも変わらずに日本の音楽シーンを引っ張っていて、後続のバンドにも影響を与えているのだ。
このようにACIDMANは偉大で素晴らしいバンドなのだ。オシッコマンと呼ぶのは可哀想なので、偉大なバンドへのリスペクトを込めつつ、オシッコした息子をACIDMANと呼ぶことにした。カッコいいバンドの名前なのだから、ACIDMANと呼ばれて悪い気はしないだろう。
今の我が家では当たり前のように「泣いてるけどACIDMANになった?」「今ちょうどACIDMANになった」と会話し、大木伸夫の帽子よりもガッチリとガードされたオムツを外し、付け替える。毎日それを、繰り返して、繰り返して、オムツは静かに股間を包んで。
記録ノートにも「ACIDMAN」と書くようになった。
どうやらミルクを一回飲むと、2〜3回はACIDMANになるようだ。
今までACIDMANという文字を手書きしたことはほとんどなかったが、ここ数日で何十回も手書きしている。ACIDMANが自分が人生で最も手書きしたバンド名になってしまった。自分はいったい何をしていているのだろうか。
そしてこの日はうんちをしていない。うんちを出さないことが心配だ。あとウンチマンという呼び名も変えたいので、ウンチマンと同じ発音のカッコいい名称を見つけたい。
ちなみにエルレ、アジカン、バンプを聴かせると泣き止む息子だが、なぜかACIDMANを聴かせても泣き止まない。むしろ泣き叫ぶ。どうやらACIDMANの音楽の魅力を、息子はまだ理解できないようだ。
ガッデム。